COFFEE COUNTY|コーヒーカウンティ(福岡・久留米)スペシャルティコーヒーの本質を伝えるー森崇顕氏の歩みと挑戦

PostCoffeeがお届けするコーヒーにさまざまな個性があるように、コーヒーの味わいを決めるロースターたちの人生もまた、それぞれ。全国各地で活躍するロースターたちへのインタビューで紡ぐ本企画では、コーヒーとの出会いやこれまでの歩み、さらには今後のコーヒーとの向き合い方についてお話をうかがいます。今回インタビューにご協力いただいたのは、福岡県に3店舗、東京都に1店舗を構える、久留米市発のコーヒーショップ「COFFEE COUNTY」。どのような人がどのような場所で生産しているのかをお客様に伝えていきたいと語る、「COFFEE COUNTY」代表・森崇顕氏の、真っ直ぐなコーヒーへの愛をお届けします。

COFFEE COUNTY(コーヒーカウンティ)の店舗


北海道と福岡で、
コーヒー修行をした20代。

森氏とコーヒーの出会いは大学生のころ。それまでコーヒーはどちらかといえば苦手な飲み物だったが、たまたま美容室で飲んだ1杯のコーヒーの味わいに感動した森氏は、忙しい大学生活のなかで時間を見つけては東京の自家焙煎店を巡り、コーヒー豆を買っては友人たちにコーヒーを振る舞っていた。就職活動をするころには「自分のコーヒー屋を持つこと」が夢となり、まずは北海道・札幌市にある「自家焙煎珈琲店CAFÉ RANBAN」でコーヒー修行をスタートさせた。

ハンドドリップをする森崇顕氏

CAFÉ RANBANは古き良き喫茶店といった雰囲気で、白シャツにネクタイが制服。ネルドリップの超浅煎りコーヒーが特徴で、扱っている豆はスペシャルティコーヒーやグルメコーヒーでした。お客様の前で一杯ずつコーヒーを淹れる、まるで高級寿司屋のような緊張感のあるお店でした。当時は2003年。日本スペシャルティコーヒー協会が設立されたのがその年だったので、コーヒー屋としては時代を先取りしていた方だと思います」

2年間CAFÉ RANBANで飲食のイロハや抽出を学んだ森氏は、新たな刺激を求め福岡県の「珈琲舍のだ」に就職。自分の味を求めて、試作を繰り返した。

「ずっと焙煎に興味があって、珈琲舍のだではじめて焙煎をやりました。オーナーが比較的自由に焙煎機を触らせてくれたので、いろいろ試しては、自分で焙煎したコーヒーをお客さまに提供するのが楽しみでしたね。でも、前にいたお店が超浅煎りでしたし、僕も浅煎りが好きだったので、先輩からは『君の味は軽い』言われてて。でも自分のこだわりは曲げずに、勝手にお客様に提供しちゃう、みたいなこともしていましたね(笑)」

凝り性で熱中すると突き詰めたくなる性分。熱心にコーヒーと向き合う森氏は、後継ぎとしても名前が挙がっていたという。一方で森氏のモチベーションは、あまり高くはなかったとも。

「珈琲舍のだで4年間働いていたんですが、終盤には『もうコーヒーをやめようかな』と思うことも多かったです。もちろんお給料はしっかりいただいていましたが、ちょうど結婚もして、自分のなかで先が見えなくなってしまい、別業界に就職しようかなと思いはじめた時期でもありました。当初思い描いていた『自分の店を持ちたい』という思いも薄れていて、昔は今ほどコーヒー豆の種類も多くはなかったですし、通販もSNSも浸透していない時代。お酒と違ってコーヒーは価格が安くて大して儲からないし、軌道に乗るまでも時間がかかるだろうと、半ば諦めていました」

3ヶ月間、生産地に住み込み、
COFFEE COUNTY創業を決意。

その後に中規模のロースターへ転職し、クオリティーコントロールやスペシャルティコーヒー専門店の立ち上げを経験。さらに会社員として働く傍ら、カッピングジャッジの資格獲得やカップテイスターズ大会に出場するなど精力的に活動。もうひとつの夢であった「生産地への訪問」へと動き出したのだった。

焙煎を行う森崇顕氏

「生産地へは北海道で働いているころからずっと行ってみたいと思っていましたが、当時生産地での取り組みを行っている企業はかなり限られていました。このままではいつまで経っても生産地には行けないと退職を決意し、3ヶ月間中米に行きコーヒー農園で住み込みでお手伝いをすることにしたんです。そこではコーヒー作りはもちろん、生産者の苦労をたくさん垣間見させていただきました。働き手の日給は5ドル。生産地で働くだけではコーヒー農園のみなさんを助けることはできませんが、日本で彼らが作ったすばらしい豆の味を多くの人に届けることはできる。そういった思いをモチベーションに、2013年久留米市でCOFFEE COUNTYをオープンさせたんです」

COFFEE COUNTY」がメインで取り扱っている豆は、森氏が直接尋ねたコーヒー農園の豆。「コーヒーを通して、作り手の人柄やその土地の風土を伝えていきたい」と森氏。

「生産地に行く前から、これからもコーヒーを仕事とするならば、生産者に会って仕入れをできないなら、もうコーヒーをやりたくないと思っていました。料理人が生産者のところを訪れ、その人や食材を知った上で料理をお客様に提供したいと考えるのと一緒で、僕もどのような人がどのようなところでどんな風にコーヒーを生産しているのかを知ったうえで、それをお客様に伝えていきたい。それが僕にとってコーヒーをやるということだと思っています」

真面目に努力している生産地に
スポットライトが当たりますように。

2013年に久留米市で創業した「COFFEE COUNTY」。20236月には東京・下北沢で「COFFEE COUNTY Tokyo」の営業をスタートした。なぜ東京進出を目指したのだろうか。

「実はお店を増やそうと思ったことはなくて、お話が来たからそれに乗っているだけなんです。今までもずっとそうなんですが、言われるとやりたくなっちゃって、考え出したら行動に出ちゃう、という感じで(笑)。なのでこれから先もお店を増やそうとは思っているわけではなくて。自分らしさを大切にしながら、自分たちのペースで、自分たちがおもしろいと思えることをやっていきたい。ある程度規模が大きくなると、自分たちのペースを維持するのが難しくなってくるじゃないですか。今はある程度バランスよくやれていますが、安全は求めずに、挑戦を続けていきたいと思っています」

北海道、福岡、東京でスペシャルティコーヒーを見てきた森氏だが、今の日本のコーヒーシーンをどう思っているのだろうか。

「スペシャルティコーヒーという言葉は広まってきているとは思いますが、流行っているところから抜けきれておらず、人気商売になってしまっている印象です。豆もパナマやゲイシャなど有名な豆に人気が一極集中しています。けれど小さい規模ながらも、いい豆を作っている生産者はたくさんいるので、スポットライトが業界全体にまんべんなく当たるといいですよね。その流れをコントロールできるのはロースターの役割だと思うので、豆が持つ本来の味わいや生産の背景をしっかりとお客様に伝え、お客様の経験値も上げられたらいいなと思っています」

最後に、「COFFEE COUNTY」代表としての今後の目標を聞いた。

「やっぱり生産地との取り組みを増やしていくことですね。行ってみたい場所はまだまだたくさんあります。あとはいつか農園を持ちたい。実現できるのかはわかりませんが、やれたらおもしろいんじゃないかなって。お客様と一緒に楽しめる農園を作りたいですね」

【プロフィール】

森崇顕/Takaaki Mori
COFFEE COUNTY

COFFEE COUNTY(コーヒーカウンティ)代表・森崇顕氏

1980年生まれ。宮崎県出身。上智大学理工学部在学中に、美容院で飲んだ1杯のコーヒーがきっかけでコーヒーに興味を持つ。卒業後は札幌と福岡のコーヒー店で働き、焙煎や店舗開業などに携わる。退職後、中米のコーヒー農園に3ヶ月滞在し、コーヒーの生産を学ぶ。帰国後、2013年福岡・久留米に「COFFEE COUNTY」をオープン。現在は福岡の久留米、西中洲、高砂と東京の北沢に、計4店舗を構える。

【スタッフクレジット】
INTERVIEW&TEXT/RYOTA MIYOSHI